一人暮らしのSさんは、今年1月の訪問看護の診察で、胸にこぶし大のしこりが見つかり、大学病院で精密検査をしたところ、乳がんと診断され、後見人はいくつかの検査に同行し、本人と一緒に医師の説明を聞きました。Sさんとの会話は成立するものの、すぐ話をしたことを忘れるなど、記憶力は相当低下しています。Sさんの治療は、腫瘍が大きく、まず抗がん剤で小さくした後、切除するというものですが、乳がんであると説明されても、すぐに忘れてしまうため、治療の必要性をSさんは理解できていませんでした。
82歳のSさんが、厳しい化学療法に耐えられるのか、副作用によってかえって体調が悪化するのではないかと、後見人は逡巡しましたが、主治医は最も適切な治療方針と考えており、Sさんも治療を拒否するような様子がないことから、予定した治療を行うことになりました。
後見人はケアマネージャーと相談し、3週間に1回6か月間にわたる抗がん剤投与期間中、Sさんが自宅で生活するのは難しいと判断し、その間だけ、入院先に近い有料老人ホームに入居してもらい、介護スタッフに囲まれ支援できる環境に配慮しました。
抗がん剤は予想以上の効果があり、触診では分からないほど小さくなったため、4回目の投与で中止となり、切除手術はしなくてすむかもしれないと期待しましたが、まだ小さな腫瘍があったため、主治医から、手術は必要と説明され、すぐに切除手術の準備が進められました。
後見人は、腫瘍の大きさから、乳房の部分切除と思っていましたが、医師の説明で全部切除であることが分かり、Sさんがこれを知ったときのことを考えると、胸が塞がれる思いでした。
心配したとおり、手術前後、Sさんは不穏な状態になりましたが、今の状況をすぐに忘れてしまうためか、入院から約4週間の術後療養期間を経て退院し、有料老人ホ ームに戻ることができました。
Iさんは、所有する財産を全て弟のKさんに相続させるとの公正証書遺言を作成していましたが、同遺言書には、KさんがIさんより先に死亡した場合に、所有する自宅不動産について特段の定めをしていませんでした。Iさんは、自身の死後のことをきちんとしておきたいという気持ちが強く、生前に両親の墓じまいなどを行っていたものの、自身の財産については「親族間で争いになるのは望まない。」「疎遠だった親族に財産を相続させたくない。」と言っていたので、Iさんの意思を実現するために、自宅を処分して金銭に換価することにしました。
居住用不動産の処分について、家庭裁判所の許可審判を受けました。
Iさんは、施設に入居していますが、自宅に残した家財を気にかけ、「整理はしたいが、ただ捨てるのではなく有効利用してほしい。」とおっしゃっていましたので、Iさんを何度か自宅にお連れして、家財整理の支援をしました。
家庭裁判所から売却が許可されたものの、建物を解体するに当たり、家財を丸ごと解体業者が処分してしまう可能もあったため、Iさんの希望を考慮して、家財撤去業者に家財の処分を依頼しました。
自宅の売却については、敷地の測量において隣地所有者の立会い等に若干の時間を要しましたが、概ね順調に進めることができ、金銭に換価することができました。
当初、Iさんは、自宅が売却されたことに寂しさを感じられていたようでしたが、時の経過とともに、元気を取り戻されました。
介護施設に入所していたAさんには、当初、別の後見人が選任されていました。Aさんには死亡した姉がおり、その相続が未了であったことから、後見人が関与して遺産分割協議を行った結果、遠方にある不動産をAさんが取得したため、これに不満を抱いたAさんの長男がクレームを頻繁に寄せるなどして、後見人と長男との関係が悪化し、後見業務遂行が困難となったことから、当協会が後任の後見人に就任することになりました。
唯一の親族である長男との関係修復と遠方の不動産の管理が課題でした。
長男との関係修復については、情報交換が不足し遺産分割に長男の意向が反映されなかったことが関係悪化の原因と思われたことから、可能な限り長男との情報交換を密にしたり、Aさんの訪問には長男と日程調整の上で同行するなど、信頼関係の構築に努めました。
相続した不動産の管理方針については、当該不動産を売却することになったものの、物件が遠方にあり現地の状況に不案内であったこともあり、仲介業者の選定が困難となっていた中、不動産所在地の「空き家等ネットワーク協議会」の情報を得て、当該協議会から地元の宅建業者の紹介を受けて売却を進め、何度か現地を訪れる必要はあったものの、幸いにしてスムーズに売却ができて、遺産分割の際の評価額がほぼ確保できました。後見人は、その間、長男への詳細な報告や協議に心がけました。
その後、Aさんは他界されましたが、財産引継の際、長男からお礼が述べられました。
Bさん(80代女性)は、要介護1、認知症、聴覚障害のため手話による通訳が必要でした。日常の生活において、金銭管理及び家事は、死亡した夫が全て行っていました。Bさんは全く管理ができないことから、心配した親族からの申立てにより、当協会が後見人に就任しました。
被後見人の夫は、死亡時に、全ての財産をBさんに相続させるとする自筆証書遺言書を残していたことから、後見人は、当該遺言書による相続手続を行うために、必要となる戸籍謄本等の書類を整え、裁判所へ遺言書検認申立てを行い、同裁判所において行われた遺言書の検認に立ち会いました。その後、この遺言書に基づいて、夫名義の預貯金の相続手続や夫名義のマンションの相続登記を行いました。
また、夫は生前、東北地方にある本家の墓に入りたいと希望していましたが、それまで相談を受けていた担当ケアマネージャーが交替したこともあり、納骨の話が進んでいない状況でした。
後見人は、後任のケアマネージャーに立会いを依頼し、手話通訳者同席の下で、配偶者の生前の意思を尊重して本家の墓へ納骨(Bさんも将来同じ墓に納骨)することについて、Bさんに確認したところ、希望したことから、直ちに、本家を継いでいる甥と電話連絡をとり、納骨について依頼をしました。
後見人は、お寺や親族との調整に関する進捗状況を確認するため、甥と数回にわたって連絡調整を行い、遺骨を被後見人の自宅から甥のもとに搬送しました。
その後、無事納骨が終わり、位牌が被後見人の自宅に送られてきました。
Fさんは、気ままに一人暮らしをしていましたが、家賃を滞納するようになり、生活を心配した大家さんが本人と共に自治体の窓口に相談に訪れ、その後、首長申立てにより、成年後見が開始されました。
Fさんは、金銭の管理や判断が苦手だったので、知人に通帳やカード類を預けていましたが、預けた後もクレジットカードを使用していたようです。そして、郵便物等を精査したところ、クレジット会社2社と債権回収会社2社から借入金の返済を求められていることが分かりました。
債権回収会社からは「減額和解のご提案」や「法的手続の準備に入らざるを得ません。」と題した通知が届いていました。
これらの請求書を受け取ったFさんが電話で今後の返済に関する話をしたり、一部でも弁済していた場合には、債務を承認したものとして取り扱われる可能性がありましたが、Fさんは、これらの郵便物について、内容を見ることもなく放置していたということで、返済について意思表示をしたことはなかったようでした。
そして、最終の弁済日からいずれも5年以上経過していることは、まず間違いないようでした。そこで、後見人は、Fさんの法定代理人として、4社に対し、消城時効を援用する旨の通知を内容証明郵便で送付しました。
通知の発送から1年以上が経過していますが、クレジット会社及び債権回収会社からの連絡は全くありませんので、後見人としては、Fさんの債務処理は完了したものと考えています。